弁護士 吉山晋市コラム

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第5回 不動産を購入する際の注意点

「衣・食・住」というように「住まい」は人生と切っても切れない関係にあります。このコラムでは,人生の様々な場面での「住まい」いわゆる不動産に関する法律問題について解説していきたいと思います。

前回のコラムでは,不動産を売却する際の注意点についてお話をしました。今回のコラムでは,売主の立場とは反対の,買主の立場,すなわち不動産(とりわけ中古不動産)を購入する際の注意点について解説していきたいと思います。

「人生で一番高い買い物」といわれる不動産の購入。一生に何度も不動産を購入することはあまりないでしょう。不動産の購入は初めてという方がほとんどと思います。高価な買い物だけに慎重にならざるをえません。そこで,中古不動産を購入する際の流れに沿って注意点をみていきましょう。


① 物件を探す
高価な買い物だけに行き当たりばったりで不動産を購入する人はいませんよね。週末の新聞折り込みチラシやインターネットで不動産販売会社の広告を見たり,直接不動産販売店を訪れて希望の立地,間取り,予算で候補を探してもらうことからはじまります。


② 現地案内
広告に記載された物件,不動産販売店で候補として勧められた物件があれば,実際に現地で物件の状況を確認します。
 中古不動産の場合には所有者がまだ居住中のこともあるので,騒音などの周囲の環境,近隣との関係など気になることがあれば直接お話を聞いてみることも購入の是非を判断する材料になるでしょう。

 また,時間帯や曜日によって周囲の環境が変化することもあります。購入して実際に住み始めてから「こんなはずじゃなかった」というトラブルは意外に多いものです。トラブルを未然に防止するためにも時間帯や曜日をずらして何度か近隣の様子を確認しておくこともお勧めします。

 


③ 重要事項説明書
現地案内も終えて購入を決断されたら,売買契約です。
しかし,不動産の購入は高価な買い物です。契約してから「そんな話は聞いてない!」というようなトラブルも起きかねません。そこで,不動産の売買契約の前に「重要事項説明書」というものが大切な役割を担います。「重要事項説明書」は,売買の対象となる不動産に関するもの,売買契約に関するものの重要な事柄について記載されており,これを不動産売買仲介業者の宅地建物取引士という資格をもった人が読み上げて説明をします。このとき,現地案内で確認した内容と異なる点や気になる点があれば,必ず質問して疑問や不安を解消しておくことが必要です。一般的には不動産売買契約書の締結の前に重要事項の説明があります。事前に重要事項説明書をもらっておいて,買主自身で読み込んでおいたほうがよいでしょう。


④ 不動産売買契約書
重要事項の説明も受けて対象物件,取引条件などについて確認ができたら,いよいよ不動産売買契約書にサインをすることになります。
以下は,不動産売買契約書において注意すべき点をあげています。
売買代金,手付金の金額が記載されていますので,間違いがないか注意しましょう。
不動産売買において,一般的には手付解除を設けることが多いです。手付解除とは,買主は自分が払った手付金(不動産売買代金の20パーセントとすることが多いです。)を放棄すれば解除できる,売主はもらった手付金の倍額を払えば解除できる,というものです。高価な買い物だけに,望まなくなった契約に拘束するのではなく,手付金の放棄または倍額の支払いによって,解除できる余地を残すものです。
また,不動産売買においては多くの買主が住宅ローンを利用します。万が一,買主の住宅ローンの審査が通らなかった場合にはどのようにすればいいのでしょう。買主の住宅ローンの審査が通るか不明な場合には,審査が通らなかったら、手付金を放棄する手附解除でなくとも買主は無条件に解除できるという「ローン特約」を設けることができます。もし,住宅ローンの審査に不安がある場合には,仲介業者に「ローン特約」をつけてもらったほうがよいでしょう。


⑤ 現状有姿
不動産売買契約書において,現状有姿特約がもうけられることがあります。現状有姿特約とは,売買契約時の不動産のあるがままの状態で引き渡しをすることを意味します。
では,前回のコラムで解説しました売主の義務のひとつである瑕疵担保責任との関係はどうなるのでしょうか。つまり,買主は現状有姿特約があれば売主の瑕疵担保責任を追及できなくなるのでしょうか。
 この点,現状有姿特約があったとしても,外部からは判断しにくい瑕疵、すなわち隠れた瑕疵があった場合には買主は売主の瑕疵担保責任を追及できると思われます。
もっとも,対象不動産の築年数などから売買代金を相場に比較して低くすることとの兼ね合いで,瑕疵担保責任を免除することもあります。この場合には,買主は売主の瑕疵担保責任を追及することはできなくなるので注意が必要です。


⑥ 競売物件の購入
 中古不動産の中でも,競売物件を競落して購入することが考えられます。
もっとも,競売物件の購入においては一般の不動産販売のような,現地案内もありませんし,売主に対する瑕疵担保責任の追及もできませんので,より注意が必要です。
競売物件の情報を収集するには,裁判所が作成する,現況調査報告書や物件明細書によるほかありません。しかし,これらの書類によっても,実際の権利関係を保証するものではないので注意が必要です。
実際にあった事例ですが,競売物件であった土地建物の正面入り口はXさん所有の私道に面しており,建物から公道に出るためには建物裏側の勝手口から出るか,Xさん所有の私道を通行する必要がある建物をYさんが競落しました。この土地建物が競売にかけられる以前は,建物所有者とXさんが私道を通行する権利,地役権を設定していました。物件明細書には,Xさんの私道を通行して利用していたという趣旨のことが記載されていたので,競落したYさんはXさんの私道を引き続き通行できると思い込み,この土地建物を競落していたのでした。
ところが,通行地役権は当事者間の契約によって設定されているので,Xさんと競落したYさんとの間で通行地役権が承継されません。
Yさんは,Xさんに無償の囲繞地通行権(いにょうちつうこうけん,民法210条)を主張できるとして訴訟提起しましたが,裁判所は,Yさんが競落した土地が袋地になった経緯,従前の通路,現在の通路,各土地の地形的,位置的状況などから,Yさんの無償の囲繞地通行権は認めませんでした。
結果的には,Yさんは,建物を利用する上でXさんの土地を通行して公道に出るのが最も簡便であったことから,Xさんと話し合いを重ねて有償で地役権を設定する契約を結びました。

このように競売物件を競落するときは十分権利関係について調査することが必要ですし,現在の権利関係を判断するには過去の古い公図が役立つこともあります。

 

高価な買い物である不動産の購入。後悔しないためにも買主自身で必要な知識をもって自分の目で確かめて契約することが大切ですね。
以上

 

2017年06月21日(水)

第4回 不動産を売却する際の注意点について

第1回から第3回までのコラムでは,住宅ローンの支払いが困難になったり,税金の滞納で差し押さえをされたりしたときの不動産の売却,相続した実家の活用方法の一つとして売却について,お話をしました。

 そこで,第4回目のコラムでは,不動産を売却する際の注意点について解説していきたいと思います。

売主としてどのような義務を負うか

不動産の売買契約は,売り主の「売りたい」という意思表示と買い主の「買いたい」という意思表示とが合致することによって成立します。

この売買契約の成立によって,買い主は売買代金の支払い義務を負いますし,売り主は目的不動産の所有権を移転する,引渡しをする義務を負います。

もっとも,売り主は目的不動産を引き渡せば終わりというわけではなく,売り主の義務は所有権移転,引渡し義務にとどまりません。そこで,所有権移転,引渡し以外に売り主がどんな義務を負うのか見ていきましょう。

売主の説明義務

もし,あなたがある不動産を購入したところ,購入後に当該不動産に建築制限があることがわかって将来建て替えができないことが明らかになった,とか,購入後に雨漏りすることがわかった,としたらどうしますか?当然,「ちゃんと売り主が説明してくれていたらこんな不動産は買わなかったのに!」と言いたくなるでしょう。

不動産の売り主は買い主に対して不動産の状況について説明する義務を負います。特に中古物件の場合には,経年変化による損耗が生じていることがあるので,その状態を買い主に伝え,それを買い主が了承したうえで購入する必要があります。

具体的には,「物件状況等報告書」に,売り主が知っている事柄を記入して説明することになります

(書式例 https://www.mlit.go.jp/common/000026648.pdf)。

売り主が知っていることをあえて隠して買い主に説明しなかったことで買い主に損害が発生したような場合には,売り主は買い主から説明義務違反による損害賠償や解除を求められることがあります。

瑕疵担保責任

瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)とは,売買の目的物に隠れた瑕疵があったときに売り主が負う責任のことです(民法570条)。買い主は,売り主に対して瑕疵担保責任を追及して損害賠償請求や契約の解除を求めることができます。

ここでいう「隠れた」とは,契約の際に買い主が目的物に瑕疵があることを知らなかったこと(善意),知らなかったことについて過失がないこと(無過失)が必要です。つまり,売り主が説明してくれなかったから知らなかった,だけでは足りません。買い主自身が少し調べたら瑕疵を知ることができた場合には買い主の無過失とはいえません。

また,「瑕疵」とは,その目的物が通常有すべき品質や性能を欠くことをいいます。「瑕疵」には,雨漏りなどの物理的な瑕疵だけでなく,目的不動産内で自殺があった,目的不動産の近隣が暴力団の事務所があったなどの心理的瑕疵も含まれます。

 

両者の関係

 このようにみると売り主の説明義務違反による債務不履行責任と瑕疵担保責任は同じようにみえます。

 しかし,瑕疵担保責任は,引渡しから10年で瑕疵担保責任は時効によって消滅しますし,買い主が瑕疵を知ったときから1年で除斥期間の経過により消滅します。これに対して,説明義務違反による債務不履行責任の場合には権利を行使できるときから10年で時効によって消滅します。

 また,説明義務違反を理由に買い主の売り主に対する損害賠償請求が認められるためには売り主の故意または過失(瑕疵を知っていたのにあえて隠した,瑕疵を知っていて説明できたのにしなかった)が必要であるのに対して,瑕疵担保責任を理由にした損害賠償請求では売り主の故意や過失は不要です。すなわち,売り主が瑕疵について知っていなくても瑕疵担保責任を負います。

 

引渡し・登記の移転

売り主の引渡し,登記の移転は,買い主の代金支払いと同時に行います。買い主が住宅ローンを利用する場合には,不動産売買の決済は銀行で行うのが一般的です。住宅ローンを貸し出す金融機関の融資実行が確認できたら,売り主は所有権移転登記に必要な書類一式とともに不動産の付属設備(給湯器,浴室乾燥機や食洗機など)の取扱説明書,鍵を引き渡すことになります。

 

契約解除による義務および損害賠償の範囲

 もし,売り主の説明義務違反や瑕疵担保責任を理由にして,売買契約が解除された場合,売り主はどのような責任を負うのでしょうか。

 まず,いずれの場合も契約が解除されたことにより契約を締結する前の状態に戻す,原状回復義務が生じます。これにより,売り主は買い主から受け取った売買代金を返還する必要があります。

 瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求では,売り主の無過失責任なので損害賠償責任を限定的に考えるのが一般的です。そのため,損害賠償責任の範囲としては瑕疵がなければ買い主が受けたであろう利益までは含みません。

これに対して,説明義務違反による債務不履行責任の場合には,売り主の故意や過失があることからすると,代金の返還にとどまらず,きちんと売り主が説明義務を果たしていれば買い主が受けたであろう利益まで損害として認められる可能性があります。

 

不動産の売却は仲介業者に委託して任せきりになることが多いと思いますが,最終的にこれらの責任を負うのは売り主になりますので,売り主としての義務や責任にかかわることについてはご自身できちんと確認するように気を付けましょう。

2017年05月31日(水)

第3回 空き家になった実家を空き家のままにしておくことの危険性,空き家の活用方法

「衣・食・住」というように「住まい」は人生と切っても切れない関係にあります。このコラムでは,人生の様々な場面での「住まい」いわゆる不動産に関する法律問題について解説していきたいと思います。

親が介護施設に入所したり親が亡くなったりして,誰も住まなくなった実家。
もちろん,親族のどなたかが実家の近くに住んでいれば管理も行き届きますが,遠方に住んでいる場合にはそうはいきません。

最近,このように空き家になった実家の問題点,活用方法について様々な情報があり,行政もその対策に頭を悩ませています。全国で約820万戸もあるといわれる空き家について,国土交通省は,平成26年,「空家等対策の推進に関する特別措置法」を制定しています。
今回のコラムでは,空き家になった実家を空き家のままにしておくことの危険性,空き家の活用方法について解説していきたいと思います。

空き家の危険性

誰も住まなくなった実家を空き家のまま残しておくことの危険性としてあげられるのが,①倒壊,②放火・失火,③不法投棄などです。

①倒壊

みなさんは,人が住んでいる状態の家と,人が住んでいない状態の家のうち,どちらが早く劣化するかご存知でしょうか。 使うから傷むのであって,だれも住んでいなければそんなに傷むことはない,と思う方がいらっしゃるようですが,答えは逆です。 誰も住んでいない家というのは驚くほど早く傷みます。
誰も住んでいないと人の出入りがなく,居室内の空気が入れ替わることも少なく湿気が籠りやすくなります。そうすると,壁や床などのかびなどの原因になります。また,水を使うことがないので排水管につまりなどが発生しやすくなるようです。また,これは私が実際に経験した事例ですが,ちょっとした雨漏りなどであれば住人がいればすぐに気づき対処できますが,誰も住んでいない場合そのまま雨水が滞留し天井が崩落する,なんていうこともありえるのです。
また,建物の倒壊,庭木の倒木などによって近隣住宅の建物の損壊や住人が怪我をしたような場合には,土地工作物の所有者責任として損害賠償義務を負うことになります(民法717条)。

②放火・失火

火災の原因に関する総務省消防庁の発表によると,火災の原因のうち,放火・放火の疑いをあわせると18.9パーセントを占め,たばこ(11.8パーセント)を大きく上回ります。
(http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/fieldList8_3.html)
誰も住んでいない家には,郵便受けに詰まったチラシ広告や不法投棄された家具などがあるため放火の格好の標的にされることになります。
また、失火が原因で近隣に延焼したとしても,失火責任法により重過失がなければ損害賠償責任を負うことはありません。しかし,失火の危険性を認識しながら回避する措置を怠っていれば,重大な過失があったとして近隣への延焼について損害賠償義務を負う可能性はあります。

③不法投棄

誰も住まず管理の行き届いていない家は,不法投棄の巣窟にもなります。誰かが小さなごみを捨てていけば,だんだんと大きなごみが投げ込まれ,そのうち捨てるにも費用がかかるテレビや冷蔵庫,洗濯機,最後には車まで捨てられている,そんな空き家を見たことはありませんか。
もちろん,不法投棄することが悪いのですが,不法投棄された結果,悪臭などの周辺環境への悪影響が出れば所有者としての管理責任を問われる可能性もあります(民法709条)。

誰も住んでいない実家をそのままにしておくとこのように民事上の損害賠償責任を負う危険性があるのです。
さきほどご紹介した「空家等対策の推進に関する特別措置法」では,空家について市区町村が調査できる権限を持ったり,さらには倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態,著しく衛生上有害となるおそれのある状態などになっている空き家(法律上は「特定空家等」といいます。)については除去や修繕などの措置の助言や指導,勧告,さらには命令ができるとされています。そして,これらの行政処分に従わない場合には,建物の底地としての固定資産税の優遇措置が受けられなくなります。つまり,更地と同じ評価の固定資産税を払わなければならなくなるので,税法上も不利益を被ることになります。

 

空き家の活用方法

では,このように誰も住まなくなった実家をどのように活用すれば良いのでしょうか。
まず,建物があるから傷むし,放火される危険もあるのだから,とりあえずいったん建物を取り壊すという方法が考えられます。
しかし,この方法は将来的に大きな税負担を抱えるリスクがあります。というのも,建物のない更地の固定資産税は,建物がある場合の約6倍にもなるからです。建物のない更地は活用方法がいろいろと考えられるので,不動産としての価値が高くなるためです。 したがって,安易に建物だけを取り壊すことは一時的な対策にならざるをえないことが多いでしょう。

つぎに建物を賃貸に出すことが考えられます。
しかし,親が住んでいた実家となれば,築年数も経過していることが多く,間取りや仕様が現代のものにマッチしていないことが多いでしょう。そうすると,賃貸に出すためにはリフォーム費用がかかり,賃貸による投下資本を回収するには長い時間を要することになります。また,親が亡くなって相続が発生している場合で相続人が複数いると,だれが実家を相続し賃貸人になるのか,遺産分割でもめる可能性もあります。

そこで,誰も住まなくなった実家を売却するという方法が考えられます。
売却による処分であれば,遺産が実家しかないような場合でも実家を相続する相続人が代償金を支払う必要もありません。売却代金を相続人間で分割すれば足りるからです。

慣れ親しんだ実家を売却するには心理的な抵抗もおありかと思いますが,このように誰も住まなくなった実家の活用方法としては売却も有効な選択肢になると考えられます。

もっとも,親が重度の認知症などにより介護施設に入所した結果,誰も住まなくなった実家を売却するという場合には成年後見人が家庭裁判所の許可を得て売却するなど一定の手続きが必要になる点には注意が必要です。

2017年05月31日(水)

第2回 もう不動産の競売手続が始まっている方へ

「衣・食・住」というように「住まい」は人生と切っても切れない関係にあります。このコラムでは,人生の様々な場面での「住まい」いわゆる不動産に関する法律問題について解説していきたいと思います。

前回のコラムでは、住宅ローンを払うことが難しくなった時、「オーバーローン」状態の債務者は,

① 不動産仲介業者がより高い金額で購入してくれる買い手を見つけてくれる可能性がある
② 引っ越しの時期を調整できる

という点で競売よりも債務者にとって有利な場面が多いので,住宅ローンの支払いが滞っている,もしくは支払いが苦しくて不動産の売却を検討されている方に「任意売却」による不動産売却をお勧めしました。

既に不動産の競売手続が始まっている方へ

では,「すでに我が家は数か月も住宅ローンの支払いができなかったせいで,もう不動産の競売手続が始まっているよ」という方はいらっしゃいませんか。
不動産の競売手続きが開始されたら「任意売却」の方法では売却できず,裁判所による競売に身をゆだねるしかないのしょうか。

競売の申立がされても,担保不動産競売開始決定の通知,執行官の訪問,期間入札の通知,入札期間の経過,開札,立ち退きという流れで進むので実際には立ち退きまでに一定程度の時間(一般的には3か月から4か月程度)を要します。したがって,すでに競売手続きが開始されていたとしても「任意売却」ができなくなるわけではありません。
前回のコラムでも解説したように,債権者である銀行などにとっても競売よりも任意売却のほうが高く売れる可能性があるので,競売手続が開始された後でも,競売の申立を取り下げてくれる可能性もあります。

もっとも,競売の申立てがされたことで任意売却ができる時間が制限されることには十分な注意が必要です。

任意売却が可能な時期は?

競売の流れの中で取り下げが可能なのは,入札期間が終了し開札されるまでです。競売手続が開始されると,地方裁判は一定の「入札期間」を定め,その期間内に入札を受け付け,別に設定された開札期日に開札を行って最高価買受申出人を決定します。入札された額のうち最も高い金額で入札した方に対し売却決定の通知が出されます。

この開札期日までであれば,競売手続きが開始されていたとしても「任意売却」できる可能性はあります。
したがって,すでに競売手続きが開始されているからといって「任意売却」を諦めないでください(もっとも,任意売却をお考えであれば早めのご相談をお勧めします。)。

税金や社会保険料滞納による不動産差し押さえの場合

では,住宅ローンの支払いはしていたけど(またはすでに住宅ローンの支払いは終わっていて)固定資産税などの税金や社会保険料を滞納していた,その結果,不動産を差押されたような場合でも任意売却はできるのでしょうか。

抵当権などが設定されている不動産であっても、不動産仲介業者による抵当権者との交渉により抵当権などを抹消することで「任意売却」を実現することができるのと同じように,差押された不動産についても,不動産仲介業者が租税債権者である市税事務所などと交渉して,差押を解除してもらうことができれば,「任意売却」することは可能です。

もっとも,税金の滞納による差押を解除することは,抵当権など担保権の抹消よりも難しいのが一般的です。差押を解除するためには解除費用(「はんこ代」などと呼ばれることもあります。)が求められます。

税金や社会保険料を滞納していても破産すれば支払わなくてもよいと思われている方もいますが,破産をしても租税債務は免責の対象外,つまり滞納した税金を払う義務はそのまま残ります。
そのため,差押をしている市税事務所などと交渉しても「滞納している税金全額を支払わなければ差押解除には応じられない」と言われることが多いのも事実です。しかし,専門的なノウハウを持った不動産仲介業者であれば,税金滞納による差押がされていたとしても租税債権者や住宅ローン債権者との話し合いによる解決の可能性があります。

もっとも,滞納額が大きく膨らんでいる場合,督促を無視するなど誠実な対応を怠っていた場合には話し合いでの解決ができないこともありますので,税金や保険料による滞納がある場合には早めに相談されたほうがよいでしょう。

2017年05月30日(火)

第1回 「任意売却」による不動産売却

みなさん,こんにちは。
弁護士法人みお綜合法律事務所の弁護士 吉山晋市(よしやま しんいち)と申します。
(編集部:プロフィールは下記に表示)
「衣・食・住」と言葉があるように「住まい」は人生と切っても切れない関係にあります。このコラムでは,人生の様々な場面での「住まい」いわゆる不動産に関する法律問題について解説していきたいと思います。

「人生で最も高い買い物」と言われるマイホームの購入

買うときは住宅ローンを払っていくことに不安はなかったものの,購入後,転職や不況によって収入が減少し,住宅ローンの支払いが苦しくなってきたという方。また,マイホームの購入に迷いや不安はあったけど,販売会社の積極的な勧めもあってローンを組んでみたけれど,やっぱり住宅ローンの支払いが苦しいという方。
私がお聞きしている法律相談のなかでもこのようなご相談は思った以上に多いものです。

すでに住宅ローンの毎月の引き落としができない,もしくは引き落としができない月がたまにあるという方は,すでにマイホームが「競売」にかけられる可能性が高い状況です。また,まだ住宅ローンの支払いには困っていないけど,住宅ローンの支払いのために日々の食費や日用品の購入をクレジットカードのリボ払いで何とか凌いでいるという方も,非常に危険です。
そこで,今回は,住宅ローンの支払いが困難になったときにどんな方法があるのかについて解説していきたいと思います。

「アンダーローン」と「オーバーローン」

どちらもあまり聞きなれない言葉かと思いますが,「オーバーローン」とは不動産の実勢価格がそのときに残っている住宅ローンを下回っている場合を言います。逆に「アンダーローン」とは不動産の実勢価格がそのときに残っている住宅ローンを上回っている場合を言います。
「アンダーローン」の場合には,不動産を売却しても売却代金で住宅ローンを完済できるので,さほど売却は困難ではありません。

それに対し「オーバーローン」の場合には,不動産の売却代金をもってしても住宅ローンを完済できず,債務が残ってしまいます。一般的にはこのような状態では,住宅ローンの債権者である銀行は売却しても不動産に設定している抵当権を外すことに同意してくれません。そうすると,抵当権が設定されたままの不動産を購入してくれる第三者を見つけることはまず不可能です。つまり,「オーバーローン」の状態では不動産を売却することすらできないのです。

【不動産の「競売」とは】

住宅ローンを組んだ際,通常は購入した不動産に「抵当権」が設定されます。「抵当権」とは,住宅ローンなど銀行からお金を借りる際,住宅や土地などの不動産に設定する担保権のことを言います。端的に説明すると,住宅ローンの支払いができなくなったときはその不動産を銀行が裁判所に競売の申立をして競売された代金から優先的に弁済,お金を受け取ることができる権利です。
つまり,住宅ローンの債権者である銀行などは不動産に抵当権が設定されていれば,抵当権の実行として裁判所に対して不動産の競売を申し立てることができるのです。
住宅ローンの返済が滞ると債権者である銀行は不動産に設定された抵当権を実行して競売することで少しでも住宅ローンの債務を回収しようとするわけです。不動産の競売でも住宅ローンが残ったとしても競売によってすべてが終わるわけではなく,残った住宅ローンについて債務者の給料債権を差し押さえるなど回収をすることになります。

では,住宅ローンを払うことが難しくなった時,「オーバーローン」の状態の債務者は銀行などになされるがまま競売されるのを待つしかないのでしょうか。
不動産が「オーバーローン」の状態であっても不動産を売却することができる「任意売却」という方法があります。
「任意売却」は競売とは異なり,専門的なノウハウを持った不動産仲介業者が債務者と債権者である銀行との間を取り持ちながら,住宅ローンが残ったとしても不動産を売却することができる方法です。

「任意売却」のメリットとは?

「任意売却」は以下の点で競売よりも債務者にとって大きなメリットがあるといえます。
一般的に競売では入札価格によって売却代金が決まるので市場価格よりもかなり低い金額になってしまうのに対して,「任意売却」では不動産仲介業者がより高い金額で購入してくれる買い手を見つけてくれるので市場価格に近い金額での売却ができます。
また,競売では不動産の明け渡しも裁判所による競売手続きのなかで決まってしまいますが,「任意売却」では不動産仲介業者が売り手である債務者の都合を聞きながら進めることができるので無理のないスケジュールで売却できます。

このように,「任意売却」には競売よりも債務者にとって有利な場面が多いので,住宅ローンの支払いが滞っている,もしくは支払いが苦しくて不動産の売却を検討されている方はぜひ「任意売却」による不動産売却をお勧めします。
(編集部注:実際には、債務者の状況により異なりますので、法律の専門家や任意売却の専門家等に相談することが必要です。まずは、エディオンハウジングにご連絡ください。)

「任意売却」のなかでも不動産業者が直接買い取る場合には、その不動産業者の利益の分だけ売却価格が安くなってしまう可能性があります。不動産仲介業者がリフォームなどのノウハウを持っていて,リフォーム後に実際に居住される「エンドユーザー」である買い手を見つけてくれる業者のほうが安心でしょう。

では,不動産の競売手続きが開始されたら「任意売却」の方法では売却できず,裁判所による競売に身をゆだねるしかないのしょうか。
この点については,次回のコラムで「差押」についても触れながら解説していきたいと思います。

2017年05月30日(火)

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