弁護士吉山晋市ブログ

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第8回 不動産の売却時等における賃借人立ち退き等にまつわる法律の解説

前回のコラムでは,不動産賃貸借契約にまつわる注意点と民法(債権法)改正による不動産賃貸借への影響についてお話をしました。

今回のコラムでは,賃借人が現在も居住している物件を建て替えたり,売却したりする際に,賃借人に立ち退いてもらう必要があるのか,立ち退きが必要だとしてどのような方法があるのか,立ち退き交渉の際に問題になる「立ち退き料」とはどのようなものなのか,強制的に立ち退きを求める場合の手続と費用について解説していきたいと思います。

 

 前回のコラムでも解説しましたように,賃貸借契約の存続期間の途中で不動産を売却しても、賃借人が対抗要件を備えている場合には、賃貸人としての地位も不動産の譲受人に移転し、それまでの賃貸人は賃貸借契約の当事者ではなくなります(大判大正10年5月30日,改正債権法法案605条の2第1項)。
 ここでいう「賃借人が対抗要件を備えている」というのは,不動産賃借権の登記することのほかに,賃借人が目的不動産の引渡しを受けていることも含みます(借地借家法31条)。
 したがって,あえて賃借人に立ち退いてもらう必要はありません。

 もっとも,不動産の買主が自分で居住することを予定しているときや建物が老朽化していて建て替えや敷地の有効活用をしたいときには,賃借人に立ち退いてもらう必要があります。

 

それでは、どのような場合に立ち退きが認められるのでしょうか。

 まず,賃貸借契約において,賃借人である居住者に賃料不払いや建物用法遵守義務違反など債務不履行があり、当該債務不履行が賃貸人・賃借人間の信頼関係を破壊する程度であれば、賃貸人は契約を解除して立ち退きを求めることが出来ます。

これに対して,債務不履行による解除ではなく、期間満了によって契約更新を拒絶することもできます。
 しかし,期間の定めのある建物賃貸借契約について,借地借家法では,賃貸人が賃貸借契約を更新しない場合には,入居者に対して契約期間満了の1年前から6か月前までの間に更新拒絶の通知をして,その更新拒絶には「正当事由」が必要であるとされています(借地借家法28条)。

 「正当事由」について少し詳しくお話ししますと,㋐賃貸人賃借人双方の建物使用の必要性については,老朽化による建替えの必要性や,入居者が高齢や病気などで引っ越しが困難など継続使用の必要性を比較することになります。この点については,賃貸人側で,入居者の負担が少なく引っ越しができる代替建物を紹介することでスムーズな立ち退きを進めることが考えられます。

㋑借家に関する従前の経過は,当初の契約締結からこれまでの期間の長短,入居者の債務不履行の有無などです。

㋒建物の利用状況は,事業用か非事業用か,実際に居住しているか,などです。

㋓建物の現況は,老朽化の程度,修繕の必要性とその費用などです。構造が木造か、建築基準法に適合しているか、耐震基準を満たしているかどうかも重要なポイントです。

 最後に,㋔財産上の給付をする旨の申出というものが,いわゆる立ち退き料にあたります。しかし,立退き料を払えば,入居者に立ち退きを要求できるわけではありません。あくまで最終的に「正当事由」を補う要素にすぎません。

近年の裁判例では,立退料の支払と引換に賃貸借契約解除,建物明渡請求が認められた事例があります(東京地方裁判所平成25年12月11日,事業用建物につき東京地方裁判所平成25年6月14日)。もっとも,いずれの事例も建物が老朽化していたり,早急に耐震補強が必要であったという事情がありましたのでご注意ください。

 

なお,賃料を滞納して任意の明渡しにも応じない賃借人を契約解除して退去してもらうにはどのような方法が必要でしょうか。

賃借人が任意の明渡しに応じない場合には,裁判所に建物明渡しと未払い賃料及び明渡しまでの使用料相当の損害金を請求する訴訟を提起します。

賃料を滞納しているといえども,賃借人の同意を得ずに勝手に鍵をかえて追い出す,居室内の動産を勝手に処分することはできません(自力救済の禁止)。

訴訟において,賃料滞納により当事者間の信頼関係はすでに破壊されていると認められ、賃貸人の請求を認容する判決を出してもらって,ようやく強制執行に取り掛かることができます。

 明渡しを命じる判決に基づいて強制執行するには,まず,裁判所に判決が執行力を有することを証明する文(執行文)を付与してもらい,判決が賃借人に送達されたことを証明する送達証明を裁判所から付与してもらい ,強制執行の申立てを裁判所に行います(民事執行法25条、29条)。申立てには、執行官への手数料として予納金(基本金額6万5000円)が必要です。

申立てがあると,執行裁判所は通常,強制執行を実行する日までに任意で建物を明け渡すように明渡し催告を行います(民事執行法168条の2第1項)。

賃借人が明渡し催告にもかかわらず建物を明け渡さない場合は,執行官が立ち合いのもと,専門業者がカギを開錠,家具や荷物を強制的に運びだします。これを「断行」といいます。これらの搬出にかかる費用(一般的に30万円~50万円程度)は,強制執行を申し立てた者が負担します。

 

以上のように所有する不動産を賃貸すると,簡単に立ち退きを求めることはできませんし,強制執行によって立ち退きを求める場合でも多くの時間と費用を費やすことになります。

不動産を賃貸する場合には、立ち退いてもらうときのことをも考え、活用方法を慎重に検討することが大切ですね。

                 以上

2017年09月29日(金)

第7回 不動産を賃貸するときにどのような契約ができるのか

「衣・食・住」というように「住まい」は人生と切っても切れない関係にあります。このコラムでは,人生の様々な場面での「住まい」、いわゆる不動産に関する法律問題について解説していきたいと思います。

 

 前回のコラムでは,中古不動産をリフォームする際の建築基準法などによる規制についてお話をしました。

最近は「不動産投資」に関する書籍がたくさん出版されたり,セミナーや講演が行われたりしているように,親から相続した不動産や購入した中古住宅を賃貸して賃料収入を得ている方も多いように思います。

そこで,今回のコラムでは,不動産を賃貸するときにどのような契約ができるのか,不動産を売却して手放すことも視野に入れた場合にどのような契約がいいのか,について解説していきたいと思います。

ま た,今年の通常国会で120年ぶりに民法(債権法)が抜本改正されました。改正法が施行されるのは平成32年ごろを予定されていますが,契約のルールを定 めた債権法の抜本的な改正によって不動産賃貸借契約にどのような影響が生じるのかについても触れておきたいと思います。

 

賃貸借契約とは

不動産賃貸借契約は,貸主が目的物となる不動産の使用及び収益を借主にさせること,借主が賃料を支払うことを約束する契約です(601条)。

賃貸借契約については民法に規定されていますが,建物の所有を目的とした土地の賃貸借,建物の賃貸借については借地借家法という特別法においても規定されています。

 

賃貸借の存続期間

現行民法では賃貸借の存続期間の上限は20年とされています(民法604条)。

もっとも,借地借家法では,借地権については存続期間は30年とされていますし(借地借家法3条),建物の賃貸借については上記の民法604条の規定は適用されないため,20年を超えた存続期間を定めることができます(借地借家法29条)。

この点,改正債権法では賃貸借の存続期間の上限を50年とすることで,賃貸借全般に関して経済活動上の規制を排除しつつ,所有者に過度な負担にならないよう配慮しています。

 

賃貸借の更新

また、建物の賃貸借契約の更新については借地借家法26条及び同28条に規定されていますが,建物の賃貸人からの更新拒絶,解約申し入れは,いわゆる「正当事由」が必要となります。

賃貸人からの更新拒絶,解約申入れによる賃貸借契約の終了には,借地借家法28条により「正当事由」が必要とされています。

「正当事由」の判断基準として,借地借家法28条は,

 ・当事者双方が建物を使用する必要性(賃借人が高齢で引っ越し先を見つけることが困難などの事情)

 ・借家に関する従前の経過(賃料滞納の有無などの事情)

 ・建物の利用状況(店舗利用か居住目的利用か)

 ・建物の現況(築年数など老朽化,建替えの必要性の程度)

 ・財産上の給付をする旨の申し出(いわゆる立退料の有無,金額の多寡)

を考慮するとしています。

このように,借地借家法は賃借人の保護を目的とした規定が多いため,賃貸人としては更新拒絶,解約申し入れをして,自身や家族が不動産を使用しようと思っても解約できないということが想定されます。

 

定期建物賃貸借契

そ こで,建物の賃貸借については,定期借家契約というものがあります(借地借家法38条)。これは,期間の定めのある建物賃貸借で,かつ,契約の更新がな く,公正証書等の書面で契約されるものをいいます。建物のオーナーからすれば,当初から契約していた期間が満了することで確実に契約が終了するので,建替 え予定のある建物や,転勤で空き家になっている自宅などの物件も容易に貸すことができることになります。

もっとも,借りる側からすると,契約の更新ができず期間の満了によりおのずと引越ししなければならなくなるデメリットがあるので,一般的には,定期借家契約の場合は,普通建物賃貸借契約よりも低い水準で賃料を設定することが必要となります。

 

賃貸人たる地位の移転

 不動産を賃貸したものの,賃貸借契約の存続期間の途中で不動産を売却すると賃貸借契約はどうなるのでしょうか。

 現 行民法では明記されていませんが、判例では,賃借人が対抗要件を備えている,すなわち,建物賃貸借において建物の引き渡しを受けている場合で,賃貸人が不 動産を売却したときは,賃貸人としての地位も不動産の譲受人に移転し,それまでの賃貸人は賃貸借契約の当事者ではなくなるとされています(大判大正10年 5月30日)。

そして,改正債権法では,この判例法理が明文化されています(法案605条の2第1項)。

では,賃貸人が不動産を売却したあとも,従前通り,賃貸人として賃料を得ることはできないのでしょうか。

現行民法においては、賃借人の承諾があれば賃貸人の地位をそのまま留めることで,不動産を売却したあとも賃料収入を得ることができます。

そして,この点について,改正債権法の法案605条の2第2項は,

 ・賃貸人の地位を留保することの、譲渡人・譲受人間での合意

 ・譲渡人・譲受人間の賃貸借契約の締結

を要件として賃貸人の地位の留保を認めています。そのため,改正債権法においては賃借人の承諾がなくとも賃貸人の地位をそのまま留めることが可能になると思われ,賃貸人は賃料収入を引き続き得ながら,不動産を売却することが容易になると思われます。

 

敷金 

敷金については、現行民法に定義や敷金返還請求権の発生要件を定めた規定はありませんでした。

そこで,改正債権法では,敷金について,「いかなる名目によるかを問わず,賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義されました(法案622条の2第1項)。

また,敷金返還請求権についても,①賃貸借が終了し,かつ,賃貸目的物を返還したとき,または②賃借人が適法に賃借権を譲渡したとき,に発生するとされました(法案622条の2第1項)。 

 

そ の他にも賃貸借関係において債権法改正がなされましたが、契約内容などを吟味せず所有する不動産を安易に賃貸してしまうと、結局自分が使いたいときに使え なかったりしてしまいます。また、賃借人の資力などをよく確認せず賃貸したため賃料が回収できなかったり、物件に汚損破損を加えられたりすれば資産そのも のの価値も下落してしまいます。

不動産を賃貸する際には将来のことも見据えて慎重に検討することが大切ですね。

                 以上

2017年08月22日(火)

第6回 中古不動産をリフォームする際の注意点について

 前回のコラムでは,中古不動産を購入する際の注意点についてお話をしました。最近は「リノベーション」という言葉が流行しているように,中古住宅を購入した方がリフォームしてから住みはじめることも多いように思います。
 そこで,今回のコラムでは,購入した中古不動産をリフォームする際の注意点について解説していきたいと思います。なお,リノベーションとリフォームという用語は区別して用いられることがありますが,このコラムでは「リフォーム」という言葉に統一しています。

 

 まず,リフォームをする際に注意が必要な法律は「建築基準法」です
 建築基準法は,国民の生命・健康・財産を守るために,地震や火災等に対する安全性や建築物の敷地や周囲の環境等に関して必要最低限の基準を定めたものです。
 建物の所有者は,建物を建築するときのみならず,リフォームする際にも建築基準法に違反しない状態を保つことが必要です。これに対して,建築後の法改正によって建築基準法の基準を満たさなくなった建物を「既存不適格建築物」といいますが,既存不適格建築物については後述します。
 建築基準法以外にも民法,都市計画法や消防法も問題になることがありますが,今回は建築基準法を中心に解説します。

 

【建築基準法に違反すると】

 リフォーム工事の途中で建築基準法に違反することがわかった,または,せっかく費用をかけてリフォームしたけど建築基準法に違反することがわかった。このような場合,違反建築物はどうなるのでしょうか。

 建築基準法に違反する違反建築物に対して,特定行政庁は,工事の施工の停止を命じる,相当の猶予期限を設けて建築物の除却・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他違反の是正に必要な措置をとることを命ずることができます(建築基準法9条)。
 このように,自由に建築物を使用できないという制約があると,住宅の資産としての価値も損なってしまいます。
 また,建築基準法に違反する建築物が原因で他人の生命や身体に損害を加えた場合には,土地工作物の所有者として損害賠償責任を負うこともあります(民法717条1項)。実際にも,新築時点で当時の建築基準法の規定を満たしていなかった建物が地震で倒壊し,1階部分に居住していた賃借人が死亡し,遺族の方が建物所有者を相手に損害賠償請求した事案で,所有者の損害賠償責任を認め1億2900万円の賠償を命じた裁判例もあります(神戸地裁平成11年9月20日判決)。

  

【建築基準法の規制内容】

 では,違法建築にならないためにはどうすればいいのか,建築基準法がどのような規制をしているのか,リフォームの内容に即してみていきましょう。

①接道義務

建築基準法では,建物の敷地は幅員4m以上の道路に2m以上接していなければならないとされています(建築基準法43条)。この接道義務を満たさない敷地に建つ建物は建て替えや建築確認申請が必要な増築はできないので注意が必要です。
 

②サンルームやバルコニーを設置する

 サンルームやバルコニーを設置すると床面積が変わってきます。
 建築基準法では,建築物の建築面積の敷地面積に対する割合,すなわち,建ぺい率の上限を定めています(建築基準法53条)。
 床面積が変わると,この建ぺい率に影響がでてきます。そのため,床面積を増加する工事は,建ぺい率が制限内におさまっているかどうか,注意が必要です。
 

③間取りを変更する


 中古住宅では築年数によっては現代のライフスタイルに合わなくなっている物件もあるかもしれません。例えば,襖で仕切られている和室をなくしてリビングを大きくとるなどのリフォームが考えられます。 
 建築基準法では,住宅の居室には,居室の床面積の7分の1以上の採光の開口面積,居室の床面積の20分の1以上の換気の開口面積が必要になります(建築基準法28条)。

和室をなくしてリビングを大きくとるリフォームをすることによって,リビングの床面積が大きくなります。その結果,採光や換気の開口面積も大きくとる必要があることになり,既存の窓よりも大きな窓が必要になることもあります。

【既存不適格建築物とは】

 建築当時は建築基準法の基準を満たしていたのに,建築後に基準が厳しく改正された結果,建築基準法の基準を満たさなくなった。こんなときに,「違法建築」として是正命令や使用禁止命令をされたら困りますよね。
 そこで,建築基準法では,既存の建築物で,建築基準法の改正によって改正後の基準を満たさなくなった建築物を「既存不適格建築物」として,改正後の基準を満たしていないものの,違法建築とはせず法律上は適法な建築物として現状維持が認められるように扱われています。
 ただし,既存不適格建築物をリフォームする際には改正後の建築基準法の基準を満たすことが必要です。増築や改築など大規模なリフォームする際には,建築確認申請が必要となります。

 
 このように中古住宅を購入してからリフォームを予定しているときは購入物件について十分に調査・確認をしたうえで,予定しているリフォームができるかどうか事前に検討しておく必要があります。
 せっかく購入した不動産なのに,中途半端なリフォームしかできないとなるとがっかりしますよね。購入してから後悔しないためにも十分に確かめておくことが大切ですね。

2017年07月26日(水)

第5回 不動産を購入する際の注意点

「衣・食・住」というように「住まい」は人生と切っても切れない関係にあります。このコラムでは,人生の様々な場面での「住まい」いわゆる不動産に関する法律問題について解説していきたいと思います。

前回のコラムでは,不動産を売却する際の注意点についてお話をしました。今回のコラムでは,売主の立場とは反対の,買主の立場,すなわち不動産(とりわけ中古不動産)を購入する際の注意点について解説していきたいと思います。

「人生で一番高い買い物」といわれる不動産の購入。一生に何度も不動産を購入することはあまりないでしょう。不動産の購入は初めてという方がほとんどと思います。高価な買い物だけに慎重にならざるをえません。そこで,中古不動産を購入する際の流れに沿って注意点をみていきましょう。


① 物件を探す
高価な買い物だけに行き当たりばったりで不動産を購入する人はいませんよね。週末の新聞折り込みチラシやインターネットで不動産販売会社の広告を見たり,直接不動産販売店を訪れて希望の立地,間取り,予算で候補を探してもらうことからはじまります。


② 現地案内
広告に記載された物件,不動産販売店で候補として勧められた物件があれば,実際に現地で物件の状況を確認します。
 中古不動産の場合には所有者がまだ居住中のこともあるので,騒音などの周囲の環境,近隣との関係など気になることがあれば直接お話を聞いてみることも購入の是非を判断する材料になるでしょう。

 また,時間帯や曜日によって周囲の環境が変化することもあります。購入して実際に住み始めてから「こんなはずじゃなかった」というトラブルは意外に多いものです。トラブルを未然に防止するためにも時間帯や曜日をずらして何度か近隣の様子を確認しておくこともお勧めします。

 


③ 重要事項説明書
現地案内も終えて購入を決断されたら,売買契約です。
しかし,不動産の購入は高価な買い物です。契約してから「そんな話は聞いてない!」というようなトラブルも起きかねません。そこで,不動産の売買契約の前に「重要事項説明書」というものが大切な役割を担います。「重要事項説明書」は,売買の対象となる不動産に関するもの,売買契約に関するものの重要な事柄について記載されており,これを不動産売買仲介業者の宅地建物取引士という資格をもった人が読み上げて説明をします。このとき,現地案内で確認した内容と異なる点や気になる点があれば,必ず質問して疑問や不安を解消しておくことが必要です。一般的には不動産売買契約書の締結の前に重要事項の説明があります。事前に重要事項説明書をもらっておいて,買主自身で読み込んでおいたほうがよいでしょう。


④ 不動産売買契約書
重要事項の説明も受けて対象物件,取引条件などについて確認ができたら,いよいよ不動産売買契約書にサインをすることになります。
以下は,不動産売買契約書において注意すべき点をあげています。
売買代金,手付金の金額が記載されていますので,間違いがないか注意しましょう。
不動産売買において,一般的には手付解除を設けることが多いです。手付解除とは,買主は自分が払った手付金(不動産売買代金の20パーセントとすることが多いです。)を放棄すれば解除できる,売主はもらった手付金の倍額を払えば解除できる,というものです。高価な買い物だけに,望まなくなった契約に拘束するのではなく,手付金の放棄または倍額の支払いによって,解除できる余地を残すものです。
また,不動産売買においては多くの買主が住宅ローンを利用します。万が一,買主の住宅ローンの審査が通らなかった場合にはどのようにすればいいのでしょう。買主の住宅ローンの審査が通るか不明な場合には,審査が通らなかったら、手付金を放棄する手附解除でなくとも買主は無条件に解除できるという「ローン特約」を設けることができます。もし,住宅ローンの審査に不安がある場合には,仲介業者に「ローン特約」をつけてもらったほうがよいでしょう。


⑤ 現状有姿
不動産売買契約書において,現状有姿特約がもうけられることがあります。現状有姿特約とは,売買契約時の不動産のあるがままの状態で引き渡しをすることを意味します。
では,前回のコラムで解説しました売主の義務のひとつである瑕疵担保責任との関係はどうなるのでしょうか。つまり,買主は現状有姿特約があれば売主の瑕疵担保責任を追及できなくなるのでしょうか。
 この点,現状有姿特約があったとしても,外部からは判断しにくい瑕疵、すなわち隠れた瑕疵があった場合には買主は売主の瑕疵担保責任を追及できると思われます。
もっとも,対象不動産の築年数などから売買代金を相場に比較して低くすることとの兼ね合いで,瑕疵担保責任を免除することもあります。この場合には,買主は売主の瑕疵担保責任を追及することはできなくなるので注意が必要です。


⑥ 競売物件の購入
 中古不動産の中でも,競売物件を競落して購入することが考えられます。
もっとも,競売物件の購入においては一般の不動産販売のような,現地案内もありませんし,売主に対する瑕疵担保責任の追及もできませんので,より注意が必要です。
競売物件の情報を収集するには,裁判所が作成する,現況調査報告書や物件明細書によるほかありません。しかし,これらの書類によっても,実際の権利関係を保証するものではないので注意が必要です。
実際にあった事例ですが,競売物件であった土地建物の正面入り口はXさん所有の私道に面しており,建物から公道に出るためには建物裏側の勝手口から出るか,Xさん所有の私道を通行する必要がある建物をYさんが競落しました。この土地建物が競売にかけられる以前は,建物所有者とXさんが私道を通行する権利,地役権を設定していました。物件明細書には,Xさんの私道を通行して利用していたという趣旨のことが記載されていたので,競落したYさんはXさんの私道を引き続き通行できると思い込み,この土地建物を競落していたのでした。
ところが,通行地役権は当事者間の契約によって設定されているので,Xさんと競落したYさんとの間で通行地役権が承継されません。
Yさんは,Xさんに無償の囲繞地通行権(いにょうちつうこうけん,民法210条)を主張できるとして訴訟提起しましたが,裁判所は,Yさんが競落した土地が袋地になった経緯,従前の通路,現在の通路,各土地の地形的,位置的状況などから,Yさんの無償の囲繞地通行権は認めませんでした。
結果的には,Yさんは,建物を利用する上でXさんの土地を通行して公道に出るのが最も簡便であったことから,Xさんと話し合いを重ねて有償で地役権を設定する契約を結びました。

このように競売物件を競落するときは十分権利関係について調査することが必要ですし,現在の権利関係を判断するには過去の古い公図が役立つこともあります。

 

高価な買い物である不動産の購入。後悔しないためにも買主自身で必要な知識をもって自分の目で確かめて契約することが大切ですね。
以上

 

2017年06月21日(水)

第4回 不動産を売却する際の注意点について

第1回から第3回までのコラムでは,住宅ローンの支払いが困難になったり,税金の滞納で差し押さえをされたりしたときの不動産の売却,相続した実家の活用方法の一つとして売却について,お話をしました。

 そこで,第4回目のコラムでは,不動産を売却する際の注意点について解説していきたいと思います。

売主としてどのような義務を負うか

不動産の売買契約は,売り主の「売りたい」という意思表示と買い主の「買いたい」という意思表示とが合致することによって成立します。

この売買契約の成立によって,買い主は売買代金の支払い義務を負いますし,売り主は目的不動産の所有権を移転する,引渡しをする義務を負います。

もっとも,売り主は目的不動産を引き渡せば終わりというわけではなく,売り主の義務は所有権移転,引渡し義務にとどまりません。そこで,所有権移転,引渡し以外に売り主がどんな義務を負うのか見ていきましょう。

売主の説明義務

もし,あなたがある不動産を購入したところ,購入後に当該不動産に建築制限があることがわかって将来建て替えができないことが明らかになった,とか,購入後に雨漏りすることがわかった,としたらどうしますか?当然,「ちゃんと売り主が説明してくれていたらこんな不動産は買わなかったのに!」と言いたくなるでしょう。

不動産の売り主は買い主に対して不動産の状況について説明する義務を負います。特に中古物件の場合には,経年変化による損耗が生じていることがあるので,その状態を買い主に伝え,それを買い主が了承したうえで購入する必要があります。

具体的には,「物件状況等報告書」に,売り主が知っている事柄を記入して説明することになります

(書式例 https://www.mlit.go.jp/common/000026648.pdf)。

売り主が知っていることをあえて隠して買い主に説明しなかったことで買い主に損害が発生したような場合には,売り主は買い主から説明義務違反による損害賠償や解除を求められることがあります。

瑕疵担保責任

瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)とは,売買の目的物に隠れた瑕疵があったときに売り主が負う責任のことです(民法570条)。買い主は,売り主に対して瑕疵担保責任を追及して損害賠償請求や契約の解除を求めることができます。

ここでいう「隠れた」とは,契約の際に買い主が目的物に瑕疵があることを知らなかったこと(善意),知らなかったことについて過失がないこと(無過失)が必要です。つまり,売り主が説明してくれなかったから知らなかった,だけでは足りません。買い主自身が少し調べたら瑕疵を知ることができた場合には買い主の無過失とはいえません。

また,「瑕疵」とは,その目的物が通常有すべき品質や性能を欠くことをいいます。「瑕疵」には,雨漏りなどの物理的な瑕疵だけでなく,目的不動産内で自殺があった,目的不動産の近隣が暴力団の事務所があったなどの心理的瑕疵も含まれます。

 

両者の関係

 このようにみると売り主の説明義務違反による債務不履行責任と瑕疵担保責任は同じようにみえます。

 しかし,瑕疵担保責任は,引渡しから10年で瑕疵担保責任は時効によって消滅しますし,買い主が瑕疵を知ったときから1年で除斥期間の経過により消滅します。これに対して,説明義務違反による債務不履行責任の場合には権利を行使できるときから10年で時効によって消滅します。

 また,説明義務違反を理由に買い主の売り主に対する損害賠償請求が認められるためには売り主の故意または過失(瑕疵を知っていたのにあえて隠した,瑕疵を知っていて説明できたのにしなかった)が必要であるのに対して,瑕疵担保責任を理由にした損害賠償請求では売り主の故意や過失は不要です。すなわち,売り主が瑕疵について知っていなくても瑕疵担保責任を負います。

 

引渡し・登記の移転

売り主の引渡し,登記の移転は,買い主の代金支払いと同時に行います。買い主が住宅ローンを利用する場合には,不動産売買の決済は銀行で行うのが一般的です。住宅ローンを貸し出す金融機関の融資実行が確認できたら,売り主は所有権移転登記に必要な書類一式とともに不動産の付属設備(給湯器,浴室乾燥機や食洗機など)の取扱説明書,鍵を引き渡すことになります。

 

契約解除による義務および損害賠償の範囲

 もし,売り主の説明義務違反や瑕疵担保責任を理由にして,売買契約が解除された場合,売り主はどのような責任を負うのでしょうか。

 まず,いずれの場合も契約が解除されたことにより契約を締結する前の状態に戻す,原状回復義務が生じます。これにより,売り主は買い主から受け取った売買代金を返還する必要があります。

 瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求では,売り主の無過失責任なので損害賠償責任を限定的に考えるのが一般的です。そのため,損害賠償責任の範囲としては瑕疵がなければ買い主が受けたであろう利益までは含みません。

これに対して,説明義務違反による債務不履行責任の場合には,売り主の故意や過失があることからすると,代金の返還にとどまらず,きちんと売り主が説明義務を果たしていれば買い主が受けたであろう利益まで損害として認められる可能性があります。

 

不動産の売却は仲介業者に委託して任せきりになることが多いと思いますが,最終的にこれらの責任を負うのは売り主になりますので,売り主としての義務や責任にかかわることについてはご自身できちんと確認するように気を付けましょう。

2017年05月31日(水)

第3回 空き家になった実家を空き家のままにしておくことの危険性,空き家の活用方法

「衣・食・住」というように「住まい」は人生と切っても切れない関係にあります。このコラムでは,人生の様々な場面での「住まい」いわゆる不動産に関する法律問題について解説していきたいと思います。

親が介護施設に入所したり親が亡くなったりして,誰も住まなくなった実家。
もちろん,親族のどなたかが実家の近くに住んでいれば管理も行き届きますが,遠方に住んでいる場合にはそうはいきません。

最近,このように空き家になった実家の問題点,活用方法について様々な情報があり,行政もその対策に頭を悩ませています。全国で約820万戸もあるといわれる空き家について,国土交通省は,平成26年,「空家等対策の推進に関する特別措置法」を制定しています。
今回のコラムでは,空き家になった実家を空き家のままにしておくことの危険性,空き家の活用方法について解説していきたいと思います。

空き家の危険性

誰も住まなくなった実家を空き家のまま残しておくことの危険性としてあげられるのが,①倒壊,②放火・失火,③不法投棄などです。

①倒壊

みなさんは,人が住んでいる状態の家と,人が住んでいない状態の家のうち,どちらが早く劣化するかご存知でしょうか。 使うから傷むのであって,だれも住んでいなければそんなに傷むことはない,と思う方がいらっしゃるようですが,答えは逆です。 誰も住んでいない家というのは驚くほど早く傷みます。
誰も住んでいないと人の出入りがなく,居室内の空気が入れ替わることも少なく湿気が籠りやすくなります。そうすると,壁や床などのかびなどの原因になります。また,水を使うことがないので排水管につまりなどが発生しやすくなるようです。また,これは私が実際に経験した事例ですが,ちょっとした雨漏りなどであれば住人がいればすぐに気づき対処できますが,誰も住んでいない場合そのまま雨水が滞留し天井が崩落する,なんていうこともありえるのです。
また,建物の倒壊,庭木の倒木などによって近隣住宅の建物の損壊や住人が怪我をしたような場合には,土地工作物の所有者責任として損害賠償義務を負うことになります(民法717条)。

②放火・失火

火災の原因に関する総務省消防庁の発表によると,火災の原因のうち,放火・放火の疑いをあわせると18.9パーセントを占め,たばこ(11.8パーセント)を大きく上回ります。
(http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/fieldList8_3.html)
誰も住んでいない家には,郵便受けに詰まったチラシ広告や不法投棄された家具などがあるため放火の格好の標的にされることになります。
また、失火が原因で近隣に延焼したとしても,失火責任法により重過失がなければ損害賠償責任を負うことはありません。しかし,失火の危険性を認識しながら回避する措置を怠っていれば,重大な過失があったとして近隣への延焼について損害賠償義務を負う可能性はあります。

③不法投棄

誰も住まず管理の行き届いていない家は,不法投棄の巣窟にもなります。誰かが小さなごみを捨てていけば,だんだんと大きなごみが投げ込まれ,そのうち捨てるにも費用がかかるテレビや冷蔵庫,洗濯機,最後には車まで捨てられている,そんな空き家を見たことはありませんか。
もちろん,不法投棄することが悪いのですが,不法投棄された結果,悪臭などの周辺環境への悪影響が出れば所有者としての管理責任を問われる可能性もあります(民法709条)。

誰も住んでいない実家をそのままにしておくとこのように民事上の損害賠償責任を負う危険性があるのです。
さきほどご紹介した「空家等対策の推進に関する特別措置法」では,空家について市区町村が調査できる権限を持ったり,さらには倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態,著しく衛生上有害となるおそれのある状態などになっている空き家(法律上は「特定空家等」といいます。)については除去や修繕などの措置の助言や指導,勧告,さらには命令ができるとされています。そして,これらの行政処分に従わない場合には,建物の底地としての固定資産税の優遇措置が受けられなくなります。つまり,更地と同じ評価の固定資産税を払わなければならなくなるので,税法上も不利益を被ることになります。

 

空き家の活用方法

では,このように誰も住まなくなった実家をどのように活用すれば良いのでしょうか。
まず,建物があるから傷むし,放火される危険もあるのだから,とりあえずいったん建物を取り壊すという方法が考えられます。
しかし,この方法は将来的に大きな税負担を抱えるリスクがあります。というのも,建物のない更地の固定資産税は,建物がある場合の約6倍にもなるからです。建物のない更地は活用方法がいろいろと考えられるので,不動産としての価値が高くなるためです。 したがって,安易に建物だけを取り壊すことは一時的な対策にならざるをえないことが多いでしょう。

つぎに建物を賃貸に出すことが考えられます。
しかし,親が住んでいた実家となれば,築年数も経過していることが多く,間取りや仕様が現代のものにマッチしていないことが多いでしょう。そうすると,賃貸に出すためにはリフォーム費用がかかり,賃貸による投下資本を回収するには長い時間を要することになります。また,親が亡くなって相続が発生している場合で相続人が複数いると,だれが実家を相続し賃貸人になるのか,遺産分割でもめる可能性もあります。

そこで,誰も住まなくなった実家を売却するという方法が考えられます。
売却による処分であれば,遺産が実家しかないような場合でも実家を相続する相続人が代償金を支払う必要もありません。売却代金を相続人間で分割すれば足りるからです。

慣れ親しんだ実家を売却するには心理的な抵抗もおありかと思いますが,このように誰も住まなくなった実家の活用方法としては売却も有効な選択肢になると考えられます。

もっとも,親が重度の認知症などにより介護施設に入所した結果,誰も住まなくなった実家を売却するという場合には成年後見人が家庭裁判所の許可を得て売却するなど一定の手続きが必要になる点には注意が必要です。

2017年05月31日(水)

第2回 もう不動産の競売手続が始まっている方へ

「衣・食・住」というように「住まい」は人生と切っても切れない関係にあります。このコラムでは,人生の様々な場面での「住まい」いわゆる不動産に関する法律問題について解説していきたいと思います。

前回のコラムでは、住宅ローンを払うことが難しくなった時、「オーバーローン」状態の債務者は,

① 不動産仲介業者がより高い金額で購入してくれる買い手を見つけてくれる可能性がある
② 引っ越しの時期を調整できる

という点で競売よりも債務者にとって有利な場面が多いので,住宅ローンの支払いが滞っている,もしくは支払いが苦しくて不動産の売却を検討されている方に「任意売却」による不動産売却をお勧めしました。

既に不動産の競売手続が始まっている方へ

では,「すでに我が家は数か月も住宅ローンの支払いができなかったせいで,もう不動産の競売手続が始まっているよ」という方はいらっしゃいませんか。
不動産の競売手続きが開始されたら「任意売却」の方法では売却できず,裁判所による競売に身をゆだねるしかないのしょうか。

競売の申立がされても,担保不動産競売開始決定の通知,執行官の訪問,期間入札の通知,入札期間の経過,開札,立ち退きという流れで進むので実際には立ち退きまでに一定程度の時間(一般的には3か月から4か月程度)を要します。したがって,すでに競売手続きが開始されていたとしても「任意売却」ができなくなるわけではありません。
前回のコラムでも解説したように,債権者である銀行などにとっても競売よりも任意売却のほうが高く売れる可能性があるので,競売手続が開始された後でも,競売の申立を取り下げてくれる可能性もあります。

もっとも,競売の申立てがされたことで任意売却ができる時間が制限されることには十分な注意が必要です。

任意売却が可能な時期は?

競売の流れの中で取り下げが可能なのは,入札期間が終了し開札されるまでです。競売手続が開始されると,地方裁判は一定の「入札期間」を定め,その期間内に入札を受け付け,別に設定された開札期日に開札を行って最高価買受申出人を決定します。入札された額のうち最も高い金額で入札した方に対し売却決定の通知が出されます。

この開札期日までであれば,競売手続きが開始されていたとしても「任意売却」できる可能性はあります。
したがって,すでに競売手続きが開始されているからといって「任意売却」を諦めないでください(もっとも,任意売却をお考えであれば早めのご相談をお勧めします。)。

税金や社会保険料滞納による不動産差し押さえの場合

では,住宅ローンの支払いはしていたけど(またはすでに住宅ローンの支払いは終わっていて)固定資産税などの税金や社会保険料を滞納していた,その結果,不動産を差押されたような場合でも任意売却はできるのでしょうか。

抵当権などが設定されている不動産であっても、不動産仲介業者による抵当権者との交渉により抵当権などを抹消することで「任意売却」を実現することができるのと同じように,差押された不動産についても,不動産仲介業者が租税債権者である市税事務所などと交渉して,差押を解除してもらうことができれば,「任意売却」することは可能です。

もっとも,税金の滞納による差押を解除することは,抵当権など担保権の抹消よりも難しいのが一般的です。差押を解除するためには解除費用(「はんこ代」などと呼ばれることもあります。)が求められます。

税金や社会保険料を滞納していても破産すれば支払わなくてもよいと思われている方もいますが,破産をしても租税債務は免責の対象外,つまり滞納した税金を払う義務はそのまま残ります。
そのため,差押をしている市税事務所などと交渉しても「滞納している税金全額を支払わなければ差押解除には応じられない」と言われることが多いのも事実です。しかし,専門的なノウハウを持った不動産仲介業者であれば,税金滞納による差押がされていたとしても租税債権者や住宅ローン債権者との話し合いによる解決の可能性があります。

もっとも,滞納額が大きく膨らんでいる場合,督促を無視するなど誠実な対応を怠っていた場合には話し合いでの解決ができないこともありますので,税金や保険料による滞納がある場合には早めに相談されたほうがよいでしょう。

2017年05月30日(火)

第1回 「任意売却」による不動産売却

みなさん,こんにちは。
弁護士法人みお綜合法律事務所の弁護士 吉山晋市(よしやま しんいち)と申します。
(編集部:プロフィールは下記に表示)
「衣・食・住」と言葉があるように「住まい」は人生と切っても切れない関係にあります。このコラムでは,人生の様々な場面での「住まい」いわゆる不動産に関する法律問題について解説していきたいと思います。

「人生で最も高い買い物」と言われるマイホームの購入

買うときは住宅ローンを払っていくことに不安はなかったものの,購入後,転職や不況によって収入が減少し,住宅ローンの支払いが苦しくなってきたという方。また,マイホームの購入に迷いや不安はあったけど,販売会社の積極的な勧めもあってローンを組んでみたけれど,やっぱり住宅ローンの支払いが苦しいという方。
私がお聞きしている法律相談のなかでもこのようなご相談は思った以上に多いものです。

すでに住宅ローンの毎月の引き落としができない,もしくは引き落としができない月がたまにあるという方は,すでにマイホームが「競売」にかけられる可能性が高い状況です。また,まだ住宅ローンの支払いには困っていないけど,住宅ローンの支払いのために日々の食費や日用品の購入をクレジットカードのリボ払いで何とか凌いでいるという方も,非常に危険です。
そこで,今回は,住宅ローンの支払いが困難になったときにどんな方法があるのかについて解説していきたいと思います。

「アンダーローン」と「オーバーローン」

どちらもあまり聞きなれない言葉かと思いますが,「オーバーローン」とは不動産の実勢価格がそのときに残っている住宅ローンを下回っている場合を言います。逆に「アンダーローン」とは不動産の実勢価格がそのときに残っている住宅ローンを上回っている場合を言います。
「アンダーローン」の場合には,不動産を売却しても売却代金で住宅ローンを完済できるので,さほど売却は困難ではありません。

それに対し「オーバーローン」の場合には,不動産の売却代金をもってしても住宅ローンを完済できず,債務が残ってしまいます。一般的にはこのような状態では,住宅ローンの債権者である銀行は売却しても不動産に設定している抵当権を外すことに同意してくれません。そうすると,抵当権が設定されたままの不動産を購入してくれる第三者を見つけることはまず不可能です。つまり,「オーバーローン」の状態では不動産を売却することすらできないのです。

【不動産の「競売」とは】

住宅ローンを組んだ際,通常は購入した不動産に「抵当権」が設定されます。「抵当権」とは,住宅ローンなど銀行からお金を借りる際,住宅や土地などの不動産に設定する担保権のことを言います。端的に説明すると,住宅ローンの支払いができなくなったときはその不動産を銀行が裁判所に競売の申立をして競売された代金から優先的に弁済,お金を受け取ることができる権利です。
つまり,住宅ローンの債権者である銀行などは不動産に抵当権が設定されていれば,抵当権の実行として裁判所に対して不動産の競売を申し立てることができるのです。
住宅ローンの返済が滞ると債権者である銀行は不動産に設定された抵当権を実行して競売することで少しでも住宅ローンの債務を回収しようとするわけです。不動産の競売でも住宅ローンが残ったとしても競売によってすべてが終わるわけではなく,残った住宅ローンについて債務者の給料債権を差し押さえるなど回収をすることになります。

では,住宅ローンを払うことが難しくなった時,「オーバーローン」の状態の債務者は銀行などになされるがまま競売されるのを待つしかないのでしょうか。
不動産が「オーバーローン」の状態であっても不動産を売却することができる「任意売却」という方法があります。
「任意売却」は競売とは異なり,専門的なノウハウを持った不動産仲介業者が債務者と債権者である銀行との間を取り持ちながら,住宅ローンが残ったとしても不動産を売却することができる方法です。

「任意売却」のメリットとは?

「任意売却」は以下の点で競売よりも債務者にとって大きなメリットがあるといえます。
一般的に競売では入札価格によって売却代金が決まるので市場価格よりもかなり低い金額になってしまうのに対して,「任意売却」では不動産仲介業者がより高い金額で購入してくれる買い手を見つけてくれるので市場価格に近い金額での売却ができます。
また,競売では不動産の明け渡しも裁判所による競売手続きのなかで決まってしまいますが,「任意売却」では不動産仲介業者が売り手である債務者の都合を聞きながら進めることができるので無理のないスケジュールで売却できます。

このように,「任意売却」には競売よりも債務者にとって有利な場面が多いので,住宅ローンの支払いが滞っている,もしくは支払いが苦しくて不動産の売却を検討されている方はぜひ「任意売却」による不動産売却をお勧めします。
(編集部注:実際には、債務者の状況により異なりますので、法律の専門家や任意売却の専門家等に相談することが必要です。まずは、エディオンハウジングにご連絡ください。)

「任意売却」のなかでも不動産業者が直接買い取る場合には、その不動産業者の利益の分だけ売却価格が安くなってしまう可能性があります。不動産仲介業者がリフォームなどのノウハウを持っていて,リフォーム後に実際に居住される「エンドユーザー」である買い手を見つけてくれる業者のほうが安心でしょう。

では,不動産の競売手続きが開始されたら「任意売却」の方法では売却できず,裁判所による競売に身をゆだねるしかないのしょうか。
この点については,次回のコラムで「差押」についても触れながら解説していきたいと思います。

2017年05月30日(火)

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